森永博志のオフィシャルサイト

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プロフィール★森永博志 (もりなが ひろし)

パンフレット



紙といったら、サイケデリックのことだが、もうそんな遊びは風化した。


紙媒体では、数知れず雑誌の仕事をしてきた。 

田名網敬一と組み音楽誌にそれまで欠けていた紙質や色分解、指定にこだわるアート・ディレクションを導入したり、また、若気のいたりもあったが判型が大型化する風潮に抵抗し文庫本サイズの実験色の強い文芸誌を創刊したり、雑誌界ではなんとなくタブーとされていたCGをトレンディー・マガジンで大胆に使用した。


インディーズではタブロイド版やポスター・サイズのミニ・コミもつくった。印刷機を購入し、すべて自前の写真集もつくった。

出版社発行のメンズ・マガジン、女性誌、情報誌、料理雑誌、音楽誌、FM誌、ファッション・マガジン、トラベル・マガジン、エコ・マガジン、週刊誌、芸能誌、スキャンダル誌、極悪誌、、、企業の機内誌、PR誌、、、ジャンルにこだわらず、面白いと思ったら、何でも仕事してきた。


その一方で、雑誌に比べたら、その形態から編集まで断然自由な発想を活かせるパンフレットの仕事も多々してきた。

1970年代に田名網さんと組んでミュージシャンのツアー・パンフを制作したのが、パンフレット制作の面白さに目覚めたきっかけだった。

60年代から70年代にかけては、それまでの権威的文化をことごとく破壊するという風潮があり、アングラ系デザインはその先鋒にあった。

あれはまちがいなく中国の文化大革命の影響だ。

 

パンフレット制作はこのコラムにも書いたが、吉田康一と組んで制作した佐野元春のツアー・パンフで、その自由さを極めた。表紙に穴まであけた。なのにバカ売れしてしまった。

K2と組んで制作した大貫妙子のツアー・パンフはブリキのケースにおさめて、インタビューを収録したソノシートまでつけた。

ゴンチチのパンフにはジャワの香木から抽出した香油までつけた。

井上陽水のパンフは活版で文字を組んだ。

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今年、布袋寅泰のギタリズム公演の売り物のパンフレットに寄稿した。


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そのパンフには1988年の『ギタリズム:1』の時のパンフの復刻版が付録で付いていた。


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これは僕が編集ディレクターをつとめ、ヴィジュアルに凝りまくった。

いまならコンピューターで簡単に制作できるイメージをオブジェやセットで制作した。

広島の原爆投下で被爆し溶解しかかった本物の物体写真まで載せた。


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アーティストたちに曲からイメージする世界を小説や絵、彫刻、写真にしてもらった。


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この発想の元にあるのは、アラン・オルドリッジという英国人イラストレーターが1960年代に、ビートルズの曲からイメージし制作したイラストレーションと歌詞をまとめた『BEATLES ILLUSTRATED』からきている。

しかも、パンフのサイズはレコード・ジャケットと同じ四角、アートブックがジャケットの中に入っている。

ライブを見終わったあと、パンフを見ると、曲が訴えるイメージの世界で咸興を蘇らせるような作りにした。

以後、同じ発想で布袋寅泰ギタリズムや布袋寅泰&吉川晃司のコンプレックスのツアー・パンフを何年間か制作した。

2016年版は撮り下ろしの写真とテキストでシンプルに構成されている。

その2冊を比べてみると、25年の歳月の経過を推測できる。

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最近は他にいくつかパンフレットの仕事をした。

赤坂のリニューアルしたホテルのパンフでは、赤坂の戦後文化の変遷を早乙女道春に【山王ホテル】【ニューラテンクォーター】【ムゲン】のイラストレーションを頼み、他草月アートセンターで公演するジョン・ケージの写真、赤坂の高速道路が登場したソ連製SF映画『惑星ソラリス』のスチールと僕のテキストで構成した。

早乙女とは久しぶりのコラボとなった。

パンフの判型は四角。無料で配布される。


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他に、これは寄稿のみであったが、パルコ・プロデュースのパティ・スミスとフィリップ・グラス出演のギンズバーグへのオマージュ『ザ・ポエット・スピークス/ザ・コンプリート・エチュード』の売り物の公演パンフ。

これは異色とも言える内容で文芸誌のムックを想わせる。

パティ・スミスとフィリップ・グラスのテキスト、ギンズバーグとパティ・スミスの朗読詩の原文と村上春樹と柴田元幸による翻訳詩、ギンズバーグと親交を結んでいたふたりのアメリカ人の対談、パティと親交のあった日本人デザイナー3人(ヒステリック・グラマーの北村信彦、アンダーカバーのジョニオこと高橋盾、ザ・ソロイストの宮下貴裕)の鼎談、フィリップ・グラスのロング・インタビュー、早稲田大学教授にして音楽・文芸評論家の小沼純一の寄稿文に自分の「NYC83』と題した小文、、、などなど。

B5版全152ページの豪華パンフレットだ。素晴らしく味わいのある一冊だ。


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また、ゆくゆくは厚いものを制作するつもりであるが、僕がプロデュースの任について6月12日にオープンした江戸生活文化伝承館/EDO TECH MUSEUMの無料パンフを制作した。

これは蛇腹式の一枚もので片面8ページX8ページ仕立て。

ミュージアムに出品している江戸屋、うぶけや、よねや、白木屋、伊場仙など江戸創業、江戸伝来の実用品の老舗を紹介している。

デザイナーはかつて『POPEYE』『BRUTUS』のデザイナーのひとりであった藤井レオだ。

撮影は関口照生と最近UNIQLOのキャンペーンを撮ったというTAKAMURADAISUKEだ。


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このパンフにも、インタビューを元にしたテキストを提供した。ふたりは、ヨーロッパやロシアにもファンを持つゴシック系ロックのVANIRU。出会いが新宿二丁目のマーサのバーのクロージングパーティの場であったと聞き、興味を持ち、作品を聴くと刹那感のリアルさに惹かれ、仕事を引き受けた。頽廃、妖美、世紀末、占星術、魔術を想起させた。


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パンフレットは、まず、形態の独自性を特徴としている。

しかし以前ほど大胆な形態は制作費の都合上難しくなってるが、それでもデジタルにはない個性はある。


薄かろうが、ちいさかろうが、様々な発想を展開できるのが、パンフレット制作の妙味だ。


「文学より、ツーリストのパンフレットなんかに載ってる文章のが面白いね」と言ったのは、かのアイルランドの文豪ジェイムズ・ジョイスだ。











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